ダンジョンにて

「……達哉がそうしたいというのなら、僕は、いいよ」
 顔を赤らめながら、淳がそう言った。達哉は、仰向けになった彼の上に覆い被さるようにして、じっと淳を見下ろしている。
 戸惑いながらも目を閉じる淳。
 二人の顔が近付く……
 
 
「ちょおっと待ったーーー!!」
 リサは自分の怒鳴り声で目が覚めた。飛び起きて、ハァハァと肩で息をする。となりでは同じ様にその声で飛び起きたと思われる舞耶が、目をまんまるくしてリサを見つめている。
「ど、どうしたのリサ??」
「おい、何事だぁ?」
 ちょっと離れた所で眠っていた栄吉も吃驚顔でこっちへ来た。
「悪い夢でも見たの?」
「ゆ、夢だったとしてもじょーだんじゃない……舞耶さん、栄吉、早く支度して!二人を探しにいくわよ!」
 唖然とする二人を後目に、身支度を整えはじめるリサ。
「昨日はぐれたっきりで、二人の事が心配なのは分かるけど、そんなに慌てなくてもいいんじゃねえの?仮にも大の男二人なんだから、なんとかなってるって」
「うっさい栄吉!!」
 なだめようとする栄吉をパンチ一発吹き飛ばす。
「リ、リサ〜。とにかく落ち着いて、ね?」
 舞耶にやんわりと言われると、リサは少し落ち着きを取り戻す。だが、
 これが正夢だったら、どうしよう!
 そう考えると、リサの心は大いに騒ぐのであった。


「おはよう、達哉」
 達哉が目を覚ますと、すぐに淳が声を掛けて来た。
「昨日は歩き回って大変だったから、ぐっすり眠ってたね」
「……淳は、眠れたのか?」
「うん、ちゃんと眠ったよ。ちょっと早く起きたから、達哉の寝顔、久しぶりにゆっくり見ちゃった」
「……」
「ふふ。寝顔見てると、昔とちっとも変わってない気がする」
 俯き気味の達哉を覗き込んで、淳は楽しそうに微笑んだ。
「今日こそはみんなと合流しないとね」
「……そうだな」
「でも、どうしようか」
 二人だけでダンジョンの落とし穴に落ちてから、昨日はほぼ丸一日仲間を探して歩き続けた。が、結局ここから抜け出す道は見つからず、どうやら、ここはどこからも繋がっていない、閉鎖された空間であると言う絶望的な結果が得られたのだ。
「こちらからはどうしようもない……ってことになるのかな」
「……」
 達哉はライターをカチリと鳴らし、頷いた。
「かといって、何もしないで待ってるっていうのも、ねえ」
「……ここからは余り動かない方がいいと思う」
「ん。それはそうだね」
 うろうろ歩き回った末、最初の落下点に戻って来て眠りを取ったのだ。だが、上はもう人の気配はなく、仲間は仲間でここまで来る方法を探しているらしかった。
「みんな、戻ってくるかな」
「待つしかないな」
「うん……何か、連絡出来る術があればいいんだけど」
 見渡すが、アスファルトのような石壁に囲まれて、石ころ1つ転がっていない。
「ペルソナもあるし、近くに来ればお互い分かる筈だ」
「あ、そうだね。やっぱり、達哉の言う通りにした方がいいみたいだ」
 淳は覚悟を決めたように、そう言った。達哉は黙っている。二人の間を沈黙が支配する。灯りは、至る所にある落とし穴から漏れ入る光のみが光源であり、決して明るくはないが、慣れればうすぼんやりと相手が見える。達哉は手を延ばせば届く距離にいる。
「なんか、かくれんぼで僕達二人で隠れてるみたいだね」
「……」
「考えてみたら、再会してから二人だけになるのって、初めて、なんだ」
「……ああ」
 達哉がすぐそこにいる。そう思うと、淳は何となくそちらに目を向けられなくなった。自分でもちょっとおかしい気もしたけれど。
 それから色々、たわいもない話をした。ほとんど淳が話し、それを達哉が頷くといった一方的なものではあったが、淳はそれで満足だった。
「リサって、すごいパワーだよね。小さい頃からずっと達哉一筋でさ……。ずっと人を思い続けるって、大変な事だと思う」
「……」
「少しだけ、うらやましい」
 と、言ってから戸惑った。変な風に取られなかったろうか。そういうつもりでは……とか、言った方がいいのだろうか。心の中で一人慌てる淳。
「……淳」
 名を呼ばれ、異常な状況にやっと気付いた。周囲に、嫌な気配が漂っている。
「悪魔……?」
 すっかり油断していた。いつのまにか、多数の悪魔が辺りからこちらを窺っていたのだ。
「だが、どれも雑魚ばかりのようだ……いくぞ」
 達哉がペルソナを発動した。悪魔たちはそれをきっかけに、一斉に飛びかかって来た。


 最後の1匹が倒れた音で、淳は我に返った。
「……大丈夫か」
 達哉が目の前にいた。淳は達哉に抱き起こされていた。
「そうか、僕、ハマをかけられて……」
 瀕死状態から目覚めたばかりで、頭がぐらぐらする。
「じっとしていろ」
 達哉が優しげに見下ろしてくる。
「守れず、悪かった」
 その声があまりに間近で発せられ、胸がドキリとした。悟られないよう必死で目を伏せる。
「達哉は悪くないよ。僕の方こそ、戦えなくてごめん」
「怪我は?」
 胸元に達哉の手が置かれる。
(うわっ、ヤバいって……)
 達哉が眉をひそめる。
「俺、何か、悪い事したか?」
「い、いや……」
 挙動不振な淳を不審そうに見つめる達哉。
「た、達哉は、自分がどれくらい魅力的なのかを知るべきだよ」
「……?」
「リサにだって、あんなに好かれてるのに何の反応もしないし……」
「……それが今、何の関係がある?」
「いや、その……ないか」
 恥かしくなって、手で顔を覆う。しばらく達哉は考えていたようだったが、すっと手を伸ばし、淳の手を掴む。
「たつ……」
 覗き込む達哉の顔は、驚く程近くにあった。
「……マジ?」
 思わず呟く淳の唇に、達哉のそれが重なった。
「ふ……っ…」
 触れあうだけの軽いキスだったが、それはとても長い時間に思えた。顔を離し、
「こういう事か?」
 と達哉が言った。
「…………知らない、よ」
「違うのか?」
「……達哉がそうしたいというのなら……」
 卑怯な物言いだとは思ったけれど、自分からはどうしても言えなかった。リサの事や舞耶の事や、今はどうでもいい栄吉の事など色んな事がぐるぐると頭の中を巡った。
 そんな淳の物思いを遮るように、達哉は黙ったまま再び唇を押しつけて来た。
 先程とは比べ物にならないくらい、深く、濃いキスに、淳は目眩さえ覚えた。唇を割って、達哉の舌が入ってくる。それを理解しただけで、下腹部がズキズキと疼いてきた。淳は必死になって舌を絡ませる。
 唇を離すと、達哉は迷いなく淳の制服のスラックスに手をかけた。
「うあ、た、タンマッ」
 既に固くなっている箇所に触れられぬよう体を動かそうとしたが、達哉の手はそれを許さなかった。スラックスはいとも簡単に下ろされた。
「な、なんでズボンから下ろすのさ?」
「そこ、苦しそうだったからな」
 淳は赤面した。
(そんな気持ちはない風に見せておいたくせに、僕の方がこんなになってるなんて、何て思われたろう)
 そう思うと、たまならく恥ずかしくなった。
「僕の事、軽蔑したろ?」
「……どうして」
「だ、だって」
 言葉に詰まる。
「……気持ち良く感じてもらえてる証拠なんだから、嬉しいよ」
 栄吉はいつも淳ばかりいいとこ取りだ、と主張しているが、淳から言わせれば達哉の方がよっぽどそれである。いつも、一言率直に物言うだけで、たまらなく人を魅了していってくれる。
 何度も何度もキスを重ね、いつの間にか淳は制服とシャツの前ボタンも外されて、上半身もすっかり露になっていた。
「あっ……」
 達哉が舌を首筋を這わせながら、下着に手を入れた。熱を帯び屹立したものに、冷たい指が触れると、淳の腰がびくん、と跳ねた。
「ん……んっ」
 やんわりと弄びながら、淳の喘ぎを塞ぐように再び唇を重ねる達哉。
 上と下の両方の行為に翻弄され、淳は堪らず口端から声を漏らした。
 指が巧みに擦り、扱き上げ、その刺激が強くなるに従って、意識はもうそこにしか集中しなくなり、己の身体全体がまるでその部分になってしまったかのようだった。
「あっ……あっ……」
 激しく悶える淳の全身をしっかり抱きとめながら、達哉はびくびくと震えるそれから手を離すと、その後ろの箇所に触れた。淳の先走りで充分に湿り気を帯びた指でも、その部分は未だ固く侵入を拒んでいた。
「力、抜けるか?」
「やっ……あ、ああっ……駄目、体が……ゆうこと、きかなっ……」
 息も荒く、焦点も定かではない。限界近い事を知り、達哉は淳の下半身に顔を寄せた。
「……やっ……」
 生温い圧迫感に襲われ、驚いて見下ろすと達哉の口がそれを咥えていた。汚いとか、恥かしいとか、色んな感情が脳裏に浮かぶ前に、舌と歯でゆるやかに刺激が加えられ、思考が途切れる。
「はぁっ…はぁっ…」
 達哉は口と手で水っぽい音を立てながら淳を容赦なく責め立てる。淳はその快感を逃がすように必死で喘いでいたが、身体の奥から、じわじわと熱いものが這い上がってくのが分かる。それは、良く知った感覚。
「はあっ……たつ……やぁ……いい、よぉ」
 自分でも吃驚するぐらい、甘ったるい喘ぎ声が出た。
「あはあ……っ……イ………く」
 達哉が更に深くくわえ込むのと、淳の身体が大きく反り返ったのは、ほぼ同時だった。
「ーーーーっ……!」
 どの位出したか知れない。
 しばらく自慰とは無縁な生活だったから、だいぶ多いだろうという事だけは分かった。
 出し切ってから事態に気付き、朦朧とした意識をなんとか寄せ集めて、達哉の腕を掴んで引き寄せた。彼の口内から顎にかけてどろりとした液体が伝っているのを見て、愕然とした。
「た、た、た」
「……た?」
「達哉っ!!!ちょっと、出して出して!こんなの飲んじゃだめー!」
「……もう、遅い」
 悪怯れる様子もなく、ぺろりと舌で唇に残ったものを舐める達哉。
「っ……!だめだってば!」
 阻止しようと手を延ばすが、容易く抱きとめられる。快感が過ぎ去った身体は芯から痺れ、いう事をきかない。
「……なんでそんなもの、飲んじゃうのさ……」
 淳は泣きたくなった。故意ではないとはいえ、達哉の口内を汚した上、しかも飲ませてしまうとは……。恥かしくて、もうまともに顔を見られない。
「お前が出すものなら、汚くなんてないさ」
 そう言われて、淳は思わずどぎまぎしてしまったが、気持ちとしては未だ複雑である。
「し、しかも僕ばっかり気持ち良くなって、達哉は全然……」
「淳のイく時の顔、堪能させてもらったから」
「………」
 達哉の言葉はどれも淳を赤面させる。いつもは無口な達哉も、興奮の余韻が残っているようで、それも淳にとって初めて見る彼の一面であった。
「僕は……達哉も、き、気持ち良くしてあげたい、よ」
 目一杯頑張って、言った。達哉は吃驚したように淳を見たが、いつの間にか脱ぎ落ちていた淳のブレザーを拾い上げると、
「……止めとこう。身体、無理するな」
 と言いながら、淳に手渡した。
 確かに、瀕死状態から回復したばかりの身体に強烈な刺激が重なり、吐精した事もあって、淳の肉体はひどく疲労していた。
「それに……ペルソナ」
「あ」
 近くに、覚えのある反応。
 仲間たちが、やっと戻って来たようだった。
「向こうも気付いたろうから、何とか出られそうだね」
 淳がほっとしたように呟く。
 その一方で、やはり自分だけが……という心残りも、確かに感じていた。
 また、それ以外に引っかかっていて事もあったので、今のうちに聞いておく事にした。
「一応聞いとくけど、達哉って、お…男相手、経験無いんだよね?」
「無いよ」
「ご、ごめん。なんか、凄い上手かったから」
「……淳が、いちいち反応するのが楽しかったから、な」
 そして淳は、三度赤面する事となった。


「……なぁんか、嫌な感じ」
 リサが呟く。
 淳のブレザーがなんか昨日より皺っぽくなっている、と指摘したが、栄吉のバカがそりゃ、野宿したんだからなぁ、とあっさり流してくれたお陰で、突っ込む隙を無くしたのだった。
 そして二人は今までと変わらないように見える。
 それが逆に、怪しく見えるリサであった。
 ……確証はないけれど、やっぱり淳はライバルよね。
 改めてそう意識し、恋の炎を燃やすのであった。
 恐るべし、女の勘。



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ン年前に書いたのが出てきたのでついでにupしてみました。
すごい昔にサイトに上げてたものです。
もはやペルソナ2の記憶すら危うい…栄吉くんが寿司やでパンツ番長で非常に好きだった覚えがある以外他のキャラとか余り覚えてない…。
この後の話も書きかけがありましたがもうゲームやり直さないと思い出せないよー
罰の方もやってないと思うので、また最初からやり直したいなあ。